ミスチルコンサート旅@台北・1日目
2019年2月1日、2日に台北で行われたミスチルコンサート「重力と呼吸」に関する旅行記です。
日本でのチケットは抽選で外れてしまったので、台湾公演ならどうだろう?と思い、
台北の友人、ボアに相談しました。
「台湾なら絶対とれるよ」という言葉を信じていましたが、発売と同時に「2分で完売!!マジ恐ろしい」との連絡がきてしまい、落胆していました。
僕がっかりしていることを知ったボアは、
「そんなにほしいの?それなら転売サイトで探してみるよ」と言って、なんとか1日目のチケットを手に入れてくれました。
ありがとよ!!ボア!!また世話になってしまったな!!
まずは陸路のご説明を。
今年度3度目の仙台空港へ。
山形市内から高速を「関山~笹谷」だけ使い、2時間弱。
笹谷~空港の下道は、2往復して慣れてくると、単純でわかりやすい道だと感じる。
※2019年10月現在400円に値上げ
おなじみの駐車場。
看板には、10分って書いてあるけど、仙台空港までは歩いて5分くらいかな。
空港そばの駐車場の半額。
仙台空港からは、北京(上海or大連経由)、ソウル、台北便がある。
我らがLCCはまだピーチだけ。
東北の民はまだそれほど、LCCの恩恵にあずかっていない。
それでもピーチの航路は、大阪、台北、札幌と順調に増えている。
ぜひ、もっと増やしてくれ!!
東北の民にとって海外は遠すぎる。
まずは東京国にでなくてはならない。
旅行会社がいくら価格を競って安い航空券を出してくれても、東北の民は、東京との出入国の移動費に一人2万円はかかる。
ただでさえ、平均所得が低いのに。
やっぱそれじゃ「パスポートあて必要ないべー」という人ばかりになるべさ。
11月には、バンコク便が復活するきざし。
(2020年現在1月現在、運航中)
300人乗りが週3便の可能性があるという。
これも、来日客を見込んでのことだろう。
普通のより、庶民の味方LCCがもっと増えてほしいなぁ。
ソウル、上海、沖縄あたり、できればいいなぁ。
ピーチのカウンター前は、きょうも台湾人だらけ。
仙台~台湾便は、台湾人観光客が支えている。
というのも、東北の民のパスポート所有率は12.2%。
全国の23.5%のほぼ半分(河北新報による)。
民営化した仙台空港の関係者が「日本人旅行客の需要を増やすためにも、パスポート所得のための行政補助があってもいいのだけど…」と話すのもうなずける。
東北の民よ、インバウンドもいいが、もっと外国に行ってみないか!?
データ出典
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201803/20180318_73033.html
おなじみピーチ
今回の相棒は「流 (講談社文庫)」
台湾を舞台にした小説。直木賞作品らしい。
この作者の作品を手に取るのは、初。
台湾で台湾に関する小説を読む。
むふふ。贅沢。
(メチャクチャ面白かった。台湾好き、小説好きならぜひ手に取ってほしい。絶対に後悔させません)
お隣さんはやっぱり台湾人でした。
親戚一同11人で来ているとのこと。
青森の奥入瀬の温泉や秋田の温泉に行ってきたとか。
全部で10泊くらいしたらしい。
「とても良いところだったわ」
僕自身はどこも行ったことのない場所だった。
「あなたの家はどちらなの?」と聞かれ
「山形です」と答えると
「あら!!山形にも行ってきたわ!!」と目を輝かせる。
へえ。
台湾人が山形旅行するとなると…
「蔵王ですか?」
「そうそう!!ロープウェイでお地蔵様がいるところまで登ったわ!!」
「そりゃ良かったですねぇ。吹雪がすごくなかったですか?」と聞くと
「そりゃもう!!目を開けていられなくてすぐに建物の中に逃げ込んだわ!!」ととても嬉しそうに話す。
そうなのです。
南国の方々は、吹雪がうれしいのです。
「それと、山寺も行ってきたわ!!」
「きれいなところだってでしょ?」
「ええ、とっても」とにっこり。
「雪が積もった石段、降りるの大変でなかったですか?」
「ええ、とっても」とにっこり。
前職の時、1人カメラを担いで降りる時、カメラを壊しそうになってしゃますしたことを思い出した。
そのことを話しても、彼女は反応しなかった。
「日本は何回目ですか?」と聞くと
しばらく考えた後
「わかんない」と答えた。
文字通り、「数え切れないほど」ということらしかった。
実際、東北まで来る外国人旅行客は、京都も大阪も富士山も東京もすっかり回りきってしまったという人がほとんど。
前職のとき、「なぜ台湾人は山形くんだりまで旅行に来るのか」をテーマに取材したことがある。
ある人は「行ったことがないところに行きたいから」といい
ある人は「都会で疲れると、こういう田舎に来たくなるのさ」と答えた。
彼らはたいてい、収入が高いアッパークラスの人たちだった。
僕の隣の台湾人女性も、おそらくその類の方なのだろう。
「次の日本旅行は?」と試しに聞いてみると
「夏に大阪に行くわ」と答えた。
このご一家は、台南にお住まいという事で、桃園空港からは車で帰るのだ、といった。
「大阪なら、高雄から直行便でていますもんね」
「そうなのよ。便利だわ」
「日本のLCCは大阪が一番多いんです」と説明すると
「へ~そうなのね」と興味を示したが
「大阪がうらやましいです」との発言には反応しなかった。
会社を辞めて3ヶ月。
以前に増して、会話が下手になっている。
会話の流れに乗っていない発言をしてしまう。
突然僕は、大学の少人数制の講義を思い出した。
英会話コミュニケーション。
その男性イギリス人教授は
「コミュニケーションで大事なのは、質問だ」と繰り返した。
「とにかく質問しまくれ」。
講義をさぼりがちだった僕は、
テストの日時が決定したと聞き、
久しぶりに出席した。
講義後、教授に「テストを受けさせてください」とお願いした。
すると彼は、顔をしかめたまま
「Are you kidding(冗談だろう)?」
彼はプロだった。
できの悪い学生を責めるのでさえも、質問形式だった。
おっと。話がそれた。
そうだ。初対面の人にこんな発言はいらない。
僕はよく、会話の途中に余計なことを挟んで、流れを損なう。
桃園空港着。
仙台17時発。
桃園20時半着。
機内では、多くの時間を『地球の歩き方』を読んで過ごした。
宿とコンサートホールとの位置関係を大まかに把握し、行きたいところに目星をつけた。
行きたい場所=すっぽん屋
華西観光夜市、という場所に、すっぽん屋があるという。
しかし、華西観光夜市は、
夜遅くは女性は出歩かないのが無難、とある。
いいね。ここに行こう。
仙台~台北4度目にして初めて、桃園空港からMRTに乗る。
案内板を見ながらMRTの駅を探す。
台湾中国語で「捷運(ジュンユン)」というらしい。
大陸中国語では聞かない単語。
空港の案内板を見ながら進む。
台湾版スイカ
前回の旅行で買っていた。
セブン行ったら、こういうのしかなかった。
無事乗れた。
一瞬立ち止まったりすると、警備員とかが
「こっちだよ」と合図してくれたりもした。
台湾人、やっぱり親切~
桃園空港~台北駅は150元≒600円 40分くらいだったかな。
Booking.comで予約。¥1,288 TWD 353
やっぱりBooking.comが一番情報量が多くて使いやすい。
新北市「府中駅」から歩いて数分の宿。
翌日ボアからチケットを受け取るため、ボアの職場の近くにしたのだ。
350元≒1400円。
ビルの7階にあり、部屋に窓はない。
与えられるのはベッドのみ。共同スペースにロッカーがあるが、鍵は自前。
シャワー、トイレは共同。
朝食としてセルフで焼くトーストが付く。
台湾の安宿は、どんなに安くても、清潔さも秩序も保たれている。
部屋に入ると、すでに20代半ばと思しき客が入っていた。
「にーはお」と挨拶すると
彼も
「にーはお」と答えた。
一瞬変な空気になった気がしたので
「日本人ですか?」と聞くと
「そうです」と社会人的な笑顔で返事が返ってきた。
どこか「そんなことすぐわかるだろ。何がにーはおだよ」という、心を閉ざしてしまったニュアンスを感じなくもなかった。
旅慣れた感じの人だった。
どんな旅をしてるのか聞きたい気持ちもあったが、彼はすでに話したいという意思はない気がした。
僕も、この〝失態〟を挽回する方法を知らなかった。
日本人は気難しい。
そしてそれは、自分を写す鏡でもあった。
僕は気を取り直して、遅い夕飯を食べに行くことにした。
宿のカウンターのにいちゃんに
「近くにおすすめの店ある?」と聞くと
「斜め向かいに麺線の店がある」とだけ答えた。
ゆるぎのない、自信のある答えだった。
この兄ちゃんは、厳しい表情で笑顔を見せない人だったが、
決して感じが悪いとか、態度が悪いとかを感じさせることがなかった。
誠実さと不器用さとがにじみ出ているような人だった。
ただ、笑顔が少ない人は生きていて苦労する。
人と人とを結ぶ潤滑油が足りなくなり、摩擦は自分を少しずつ削り取る。
もしかしたら、彼もそうなるのかも知れない。
20代の自分を思い出した。
僕は心の中で
「ボーイズビーアンビシャス!!」とエールを送った。
外に出た。
僕は左右を見回す。
笑顔のない彼は「斜め向かいの麺線の店」とだけ教えてくれた。
右なのか、左なのか。
台湾で道を尋ねると(おそらく外国で尋ねると、ということだが)こういう大雑把な答えしか返ってこない。
僕も大雑把な答えなのに、それ以上尋ねることなく納得してしまう。
取材不足。
前職の時、いつもこれで困った。
おっと、また話がそれた。
左に見当をつけて歩いて行くと…
おお!!並んでる!!
看板に「麺線」の文字が見える。
ここに間違いないぞ。
夜10時半なのに、すごい行列。
地元の人が並ぶ店にはずれなし!!
いいぞいいぞ!!
しかも客層が老若男女。幅広い。
こりゃ期待できそうだ。
列が思ったより進まないので、隣のセブンで台湾ビールを買う。
500mlにするかと思ったが
「痔なんだからあんまり酒飲むな」と医者に言われているので、小さい方にした。
たしか、120円くらい。
列に戻ると、さらに3人増えていた。
並んでいる間、みなが何を食べているのか観察する。
メニューは多くないようだ。屋台の看板のメニューが全て。
看板には
「大腸麺線・甜不辣」
「麻辣大腸麺」一律50元
とある。
「甜不辣」。
直訳では「甘くて辛くない」という意味になる。
となると、
「大腸麺線・甜不辣」=「甘くて辛くないモツ煮込み麺」。
甘いモツ…
ウエッってなるわ…
台湾人は甘いモツに並ぶのか?
甘いモツは、実は激ウマなのか?
ムムム…
数少ないテーブルで食べている人の料理を眺めていると
「おでん&麺」の組み合わせばかりだ。
「甘いモツ」はどれだ??
結局よくわからないので、前に並んでいる人に聞いてみる。
夫婦とおばあさんの3人組。夫婦の年は僕と同じくらい。
台湾の人はみんな親切なので、質問することにためらうこともない。
「すみません。ここではどんな風に頼むんですか?」
すると、3人とも、好意的な表情で僕を迎えてくれる。
旦那の方が
「麺と天ぷらをセットで頼むのがいいよ」という。
妻の方も
「そう。見てごらんないよ。みんな、麺と天ぷらを頼んでるわ」
天ぷら??
どーゆーこっちゃ??
誰も天ぷらなんて食べてないよ??
一度頭にクエスチョンが浮かんでしまうと、
今の僕のレベルでは
早口でまくしたてるネイティヴ中国についていくのは不可能だ。
話し終わったところで改めて聞いてみる。
「というと、ここのメニューは何々あるんですか?」
一通り説明した後に、スタートに戻る質問をされても、
彼らは嫌な顔一つしない。
「いやだから、『大腸麺線』と『天ぷら』だよ」
「天ぷら??」
「あなた日本人なのに、天ぷら知らないの?」
???
天ぷら??
どこにも書いてないじゃん…
つーか、誰も食べてなくね??
…
…
あっ!!
わかった!!
甜不辣!!
甜不辣(ティエンブーラー)
甜(てん)不(ぷ)辣(ら)!!
わかった。
やっとわかったよ!!
当て字なんだね!!
あのおでんと思ってたの、天ぷらか!!
僕は
「明白了(わかったよ)!!」を繰り返す。
辛抱強く説明してくれた夫婦は、「ようやくわかってくれたか??」と明るい表情になる。
そして彼らは、恐らく2回目となる説明を繰り返してくれた。
要はメニューは
「大腸麺線」と「甜不辣(天ぷら)」の2種類ということらしい。
で、どちらも50元≒200円。
「大腸麺線」の辛さはお好み。
「それでお腹いっぱいなる?」と聞くと
「バッチリだ」という。
そこに奥さんが
「ここの唐辛子はものすごく辛いから、私は〝微辛〟にしているわ」と、
これまた常連らしいアドバイスをくれる。
〝微辛〟
初めて聞く表現だ。
台湾中国語らしい、優しい響きだ。
この短時間で、新単語2つも習得した。
僕も
「辛いのは苦手なので、〝微辛〟のにしよう」とさっそく新単語を使ってみる。
痔持ちなので、辛いのは避けたい。
僕の番になって
旦那さんが「彼の分も頼んであげなよ」というと
店の主人の近くにいた奥さんが
「彼も天ぷらと大腸麺線を微辛で一つずつ」と頼んでくれた。
ありがとう。どうもご親切に。
並んでいる間にビールを飲み干してしまい、
結局もう1本ビールを買い足して、宿に戻った。
買う瞬間、僕の肛門がにらんでいる気がした。
誰もいないラウンジで食べる。
右が「大腸麺線」。中に豚のモツも入っている。
〝微辛〟で、唐辛子はほとんど入っていないはずなのに、激辛だった。
僕はビールをごくごく飲んで辛さを洗い流した。
難しい問題を胃に丸投げしたような気がした。
そして胃はこの難問を肛門へと丸投げすることになるだろう。
肛門がおののいている気がした。
左の「天ぷら」は、揚げ物に台湾風のソースがかかっていた。
肝心の中身は忘れてしまった。
イカの揚げ物とか揚げ豆腐とかだった気がする。
ただ、「甜不辣」は、日本料理で言うところの「天ぷら」ではなかった。
「甜不辣」は「甜不辣」だった。
どちらも「ザ・台湾庶民の味」という感がした。
それでもとにかく、とてもうまかった。
部屋に戻ると、相部屋の男性はすでにカーテンを閉めていた。
僕もおとなしく眠ることにした。
あしたはコンサートだし、寝るとするか。
痔の薬のことはすっかり忘れたまま。
台湾ではぜひヒッチハイクを試してほしい~秘境へ向かう旅~
前回の旅行では日程が足りず、手前の「三地門」で諦めたことを、ずっと後悔していた。
そうなれば、もっと後悔する。
でも、計画のない旅を続けていた僕が、小琉球からフェリーに乗って本島に戻ると、バスはもうなかった。
港にたむろしているタクシーに聞くと、霧台まではけっこうな金額だった。
「じゃあ途中の屏東までにしたらどうだ?」
ただ、屏東に行ったところで、宿の心配はないだろうが、バスがあるかはわからなかった。
「おおそうか」と手をふってくれた。
日本でやったことがある。個性的な人ばかりが拾ってくれて、楽しかった。
この先は港。
よし、やってみよう!!
どうやって写真に残そうか。
は??
もう??
車のわきまで行くと、一瞬間があってから、窓が開いた。
でもよく見ると、人懐っこい目をした人だった。
助手席にはハンサムな男性が座っていた。
「霧台に行きたいんです」というと
「遠すぎる!!」と絶叫する。
「とりあえず乗る?」と聞いてくれる。
「そんな照れくさいよ」と、
「僕らは高雄に戻るんだ。僕ら『東港』で働いてるんだけど、これから高雄の家に帰るんだ」とコワモテさんが教えてくれる。
イケメンさんが引き継ぐ。
「だから霧台とは全く別方向なんだ」
確かに、ここから高雄に行くには北西、霧台は北東の方角。
「もちろん!!」
コワモテさんとイケメンさんが陽気に話しかけてくれる。
そして台湾の人との定番の会話。「日本に行った話」になる。
「以前もヒッチハイクしている人見かけてことがあってね」
「こわい人だと思われたんでしょ!やばい、誘拐される!!って(笑)」
そしたらイケメンさんがコワモテさんを指差して聞いてくる。
「どうして乗せてくれたの?」
イケメンさんの僕への質問で一番反応が大きかったのが
「台湾で一番好きな料理は何?」
「え~とね、一番好きなのは…
野菜炒め!!そして、生姜ががっぷり入ったスープ!!」
「もっといろいろあるでしょ!?なんで??」
「『空芯菜』って、日本の飲み屋さんなんかで頼むと、一皿700円くらいするんだよ」
「えー!!高い!!」
「でしょでしょ??外の椅子に腰掛けて、生暖かい風の中で飲む台湾ビール。そんで空芯菜とかをムシャムシャ食べてると、台湾に来たな~ってうれしくなるんだよね」
あの、胃に染み渡る感じがたまらないんだよ~」
こちらからもいろいろ聞いてみると、3人同じ職場なんだそうだ。
朝4時から働いているから、まだ明るいこの時間には仕事が終わる。
「いや兄弟だよ」という。
コワモテさんが聞く。
年齢系の問題は万国共通(?)の難題だ!!
その「どっしり」には、
正解だった。
年齢問題は古今東西問わず敏感だ。
と、そんなやり取りをしている間、イケメンさんがスマホのグーグルマップで検索してくれているようだった。
「よし、行くか!!俺たちも霧台は初めてなんだよ!!」
いいの?
やったーー!!
ありがとう!!
なんてことだ。
そうこうしているうちに、「三地門」を通りかかる。
あっ、セブンイレブンが出来てる。
10年前、僕はここまで来た。あのときも台湾一人旅で、台湾を一周した。
さあ、いざ。いざ霧台へ!!
車はぐんぐんと山道を登る。登っても登っても山道。
「ありがとう」
堤さんは吸わない。
「好き。写真はやる?」
「やらないけどさ」
同じ世界に生きている、と感じる。
「本当にありがとう」
台湾一人旅は謎の〝薬湯炭酸〟で始まる
この旅行は、友人ボアが空港に迎えてきてくれたことから始まる。
今回の台湾旅行では、
桃園もこの景色か、好きだなあこの雑多な感じ。
車の中で仕事やなんやの話をする。
ふと、ボアが「何食べたい?」と聞くので
「OK」
雑居ビルの8階にある、8人部屋のドミトリー。
台湾の生暖かい空気に包まれる。
「俺も台湾で生活してみたいよ」
ほう。『黒松沙士』ですか?飲んだことないな。
なんだこれ!?
これは中華圏ならではの味!
慣れればうまい!、という気もしてくる!
「独特な味で台湾に来た感じがする!」という微妙な表現に、
調理している間じゅう、お店断って写真をバシャバシャ撮る。
台湾旅行は心温まることだらけ
退職前に無理やりとった有給休暇で台湾に行ってきた。
そこでは、心温まることだらけだった。
そんな1シーン。
市内から桃園駅までのバスでのこと。
とりあえずバス停を見つけ、駅に向かうバスに乗り込んだ。
台湾での初バス!
乗り込む際、運転手さんに中国語で聞いた。
「このバスは駅に行きますか?」
運転手はだまって頷く。
「料金はいくらですか?」
運転手は前を見たまま答える。
「18」
どこからどこまで乗っても18元(≒72円)らしい。
あれ、待てよ?18元?そんな細かいお金持ってたっけ?
財布を見る。やっぱりない。100元札以上しかない。
運転手に申告してみる。
「ごめんなさい。細かいお金ありません」
運転手は困った顔で答える。
「 悠遊カード(日本でいう「SUICA」的なカード)はないの??」
「ないです…」
そこで運転手はさらに困った顔をする。何かぶつぶつ言っているか聞き取れない。恐らく「カードもない、小銭もないでバスに乗られても困るんだけどなー」的なことをつぶやいているに違いない…
その次の瞬間、運転手さんは大声で呼びかけた。台湾語らしく一言も聞き取れない。
すると乗客が反応し、一斉に財布の中身を確認しだした。
乗客は5人ほど。そのうちのおばちゃんが何か「私が!」的なことを言っている。
なるほど!
両替できるお客がいないか、確認してもらっているのか!
(いや~申し訳ないっす)と思いながら、椅子の先っぽにちょこんと腰掛けていると、ずっと突っ伏して寝ていた高校生らしき青年が、がばりと起きて何か叫んだ。
そして運転手が何か好意的に答えている。
全て台湾語でのやり取りで全く聞き取れない。
そして、学生が立ち上がり、運賃箱に小銭を投入。どうも彼が僕の分を払ってくれたらしい。
お礼を言う間もなく青年はまた突っ伏す。
運転手に
「もしかして彼が出してくれたのですか?」
と聞くと
「そうだ」という。
僕は突っ伏している青年につんつんして起こした後、礼を言った。
彼はいいってことよ!という感じで「どういたしまして!」と一言返すと、また突っ伏す。
僕はさらに彼をつんつんして「記念に写真を撮らせてくれ」と言うと、気軽に応じてくれた。
「高校生ですか?」
「そうです」
「どうもありがとう」
「いえいえ」
そしてまた突っ伏す。よっぽど眠いのか、照れ隠しなのか…
こんなときのために、日本のタバコを持ってきたいたがさすがに高校生に渡すわけにはいかず…
名前を聞いてFacebookで繋がりたいな、また声かけようかな…と迷っていると、周りのおばちゃんが「どこから来たんだ?」と質問してきた。
「日本です」
「どこに行くんだい?」
「これから台南に行くんです」
「そうかそうか。ぜひ楽しんでくれ」
「ありがとう」
そして、駅前のバス停に到着。
でも駅は見えない。
運転手が「そこまっすぐ進むと駅がすぐだから!」と叫んでいる。最後まで世話を焼いてくれている。
すると一緒に降りたおばちゃんが「私が連れて行くわ!」と面倒を請け負ってくれている。
僕はまだ突っ伏していたままの高校生に
「ありがとね!」と声をかけて(Facebook聞かずにいいのか??)と自問自答しながら、おばちゃんについていった。
数十メートルの道すがら、おばちゃんが聞く。
「どこに行くんだい?」
「台南です」
「そうか!台南か!台南はとってもいいところだよ!台南に行くなら『安平街』というところがとてもおすすめ。ぜひ行くといい」
「ぜひ行きたいですな!」
すぐに駅が見えてきた。
「あれが駅だよ。改札は向こう側。人の流れに沿っていけばすぐよ」
「ありがとう」
「私たちはもう友達だね!台南楽しんでね!」と送り出してくれた。
桃園の方々、なんて親切なんだ。
ありがとう桃園!
台湾を旅行してて後から気づいたのだけど、けっこう年配の方もFacebookアカウントを持っていたりする。
あ~やっぱり2人の名前とFacebook聞いておくんだった!
#台湾
台湾で財布を落とした結果
何度探してもなかった。
身体中のポケットとバッグの中を3巡して、僕は確信せざるをえなかった。
ない。
財布がない。
僕は、台南市という知り合いが1人もいない異国の地で財布を落としたのだ。
通りに面した食堂(文章牛肉店)で、メニューを決め、支払いを済ませようとしたときだった。
ひとり旅の僕は、いつものように周りの人に何がオススメかを聞いていた。
丁寧に教えてくれた60代と思しき夫婦は、立ち上がってせかせかとポケットをまさぐっている僕を、何事かと見上げていた。
「どうした??」と怪訝そうに聞いてくる。
「財布を落としたみたいです」
この一言にギョッとして、周りの客が一斉にこちらを見る。いかにも「仕事帰り」という30代ぐらいの男性の目がカッと見開いている。高級そうなYシャツとは不釣合いの表情だった。
「探してきます」。それしか出来ることはない。台南には知り合いが1人もいない。僕が出来ることは探すことだけ。
「どうやって??」と夫婦の夫。そこには「探したって見つかりっこないでしょ…」という力ないニュアンスが含まれている。
「今来た道を辿ります。それしか方法がない」
テーブル中の客が、箸を止めて僕を見ていた。
誰かが何かを言った気がしたが、もう何も聞こえなかった。
ちょうど満月の日だった。
僕は、この店に来る前、この美しい満月を何度も何度も撮影していた。
この店に来る前に公園で、おじさんに道を聞いた。
そしたらおじさんが、「食事がまだなら、美味しいお店を紹介するよ。僕はもう食事を済ませから紹介だけ」と言って、僕をこの「文章牛肉店」に連れて来てくれたのだった。バイクで前を走る彼を自転車で必死に追いかけながら、それでも僕は何度も満月を撮っていた。
この美しい瞬間を切り取って、日本に持ち帰りたかった。
日本でこの写真を見れば、この美しい街並みで感じた台湾人の親切さが、また僕の心を温めてくれる。
財布を探しに戻ろうと自転車にまたがって、ふと満月を見上げてみた。
旅を満喫していたさっきの僕と、財布をなくした今の僕とでは全然違うのに、満月はさっきと同じ。
改めてよく見ると、その佇まいはとても冷たく僕を突き放しているように見える。傲慢にさえ映る。
満月は、僕が財布を落としたことに全く同情なんかしてくれていない。
さっき撮った写真は「美しい瞬間」ではなく「美しいと思い込んでいた瞬間」なのかも知れない。
とりあえず、今来た道をたどりながら、公園へと向かった。
この食堂に来る直前、僕は川沿いの公園で台湾ビールを飲んでいた。
本当は「夕日を眺めながら台湾ビール」で決め込もうと思っていたが日没に間に合わず、とりあえずのんびりビールを堪能していたのだ。30分後にはこんなことになるとも知らず。
くまなく地面に目をやりながら、アルコールが抜けず少し麻痺している脳みそで、僕はあれこれ考えた。
もし、もし財布が見つからなかったら、僕はどうすべきか?
それほど心配することではない。
ここは先進国、台湾だ。とりあえずクレジットカードがあれば当面はしのげる。
宿泊も問題ない。移動も新幹線ならばクレジットカードの使用は問題ないはずだ。
クレジットカード万歳!!
…
いや待てよ…
クレジットカード2枚はどこにあるっけ?
あっ!2枚枚とも落とした財布の中だ…
やばい…クレジットカードないじゃん…
いや、待て待て!両替していない日本円がまだある。
…
いや待てよ…
日本円はどこにあるっけ?
あっ!全部あの財布の中だ…
やばい…
俺マジ無一文だ…
やばい、やばいぞ!
どうする?ドースル?俺!!
ふと頭に浮かんだのは、辺境作家・高野秀行著『怪しいシンドバッド』に出てた、インドでパスポートを強盗された話。彼は領事館に相談に言ったらしい(高野さんのパスポートは、奇跡的に領事館に郵送されてきて、現地の領事館職員も「こんなことは初めてだ」と驚愕したという)。
【参考】
そうだ。とりあえず大使館に逃げ込もう。
いや、待てよ?
台湾の日本大使館ってどこだ?台南にはないよな…
(実質的な大使館、領事館の「台北駐日経済文化代表処」は台北と高雄にあるそうです)
大使館に泣きつくにも、たどり着くまでの足がない…
やばい、これはヤバイぞ!!
財布を取り戻すしかない!!
財布よ、どうかあってくれ!!
落とした候補地は2箇所だった。
ビールを飲んだ公園と、ビールを買ったファミリーマート。
ビールを買った後、しょうもない写真を撮ったときが最大の候補の瞬間。
撮影しようと中腰になったときに、お尻のポケットから落ちたのかも。
閑散とした公園で落としたのなら拾われていない可能性は大だったが、もし利用客の多いファミリーマートで落としたのなら、絶望的だ。
買い物をしてから、すでに1時間以上経過している。
ファミリーマートにはない。どうか、どうか公園にあってくれ。
焦りが胃を突き上げてくる。
信号待ちのときに満月を見上げる。相変わらず神々しくどっしりしている。僕の苦悩など、どこ吹く風だ。
自転車で人とすれ違うたび、「あの人は財布を落としていない人」とうらやましくなる。
公園の入り口では、カップルが寄り添って川を眺めている。
その隣を、財布を落として平静さを失った37歳の日本人が自転車で走り抜けていく。
財布よ、あってくれ、あってくれ。
公園の細い道を辿る。来た道を正確に辿る。道にはない。
きっとビールを飲んだ椅子に落ちているはずだ。椅子!!
その椅子が見えてきた。
あってくれ、あってくれ。俺の財布よ!!
………
ゴーン
ない、ない、ない!!
どこにもない!!
僕は椅子にぺたりと座り込んだ。
ない。という現実。
周りには、犬の散歩をしている現地の人が、楽しそうに世間話していた。とても楽しそうに。
彼らは財布を落としていない。当たり前の日常が続いている。
でも僕は、異国で財布を落とした37歳。彼らと僕とには大きな隔たりがある。
さあどうする?ドースル?どうする??俺!!
落ち込んでいる時間はない。
とりあえず、次の候補地、最大の候補地、ファミリーマートに行かねば。
来た道を正確に辿る。
段差を走るときの衝撃で落ちたのかも、と、段差があるところは念入りに探しながら走るが、やはりない。
戻りながら、自分の寄り道が意外と多いことにイライラしながら、ファミリーマートに向かう。
あってくれ、あってくれ。
ファミリーマートが見えてきた。
さあ、あってくれ!!
………
………
ゴーン
ない…
ない、ない!!
どこにもない!!
何度も目を凝らして見ても、やはりない。
ないのか?ないのだな。
そうか… わかった。受け入れるよ。
ない、ないのだ。
僕は諦めた。もう、ないものはないのだ。
グッバイ マイ財布。1,000円の安物だったけど、君にはだいぶ世話になったよ。
グッバイ 台湾ドル。君たちには世話になる前の短い付き合いだったね。
旅行2日目。台湾ドルで5万円ぐらいが入っていたはずだ。空港の駐車場代にとっておいた日本円は3,000円。
これぐらいの額なら、罪悪感もそれほどなくネコババするにはちょうどいいかもしれない。
お酒が強くない僕でも、酔いはすっかり覚めていた
絶望が体中を蝕んでしまった中で、アルコールがはじき飛び、クリアになった頭でやるべきことを考える。
運転免許証や保険証の再発行は、まずは住民票をとってか。
カードの再発行は、ネットで完結できるかな。
あれやこれやで、2日はかかるだろうなぁ。
帰りの航空チケット、日程変更もまた面倒だなぁ。
ピーチだから変更だけでお金かかるな…
また、余計な出費だ…
店の中に目を向けると、店員がレジ打ちをしていた。
彼らもまた、平穏な日常を過ごしている、向こう側の人たちだった。
ま、せっかく来たんだし、店員に聞くだけ聞いてみるか。
どうするかはその後に先送りだ。
さっきビールを買ったときの店員さんは見当たらなかったので、レジの女の子に声をかける。
「すみません。このお店で財布を落としたかも知れないんですが…」
「お待ちください」
女性店員に怪訝な表情はなく、何か「あっ!!」という感じの表情だった。様子がおかしい。
あれ??どゆこと??
奥に姿を消した女の子に呼ばれ、ビールを買ったときの店員さんが出てきた。彼は何か期待感に満ちたような表情をしている。何かを楽しんでいる。でも嫌味な感じは一切ない。
藁にもすがる思いで、改めて聞いてみる。
「このお店で財布を落としたかも知れないんですが…」
「ええ。そうみたいですね」と微笑む。
「えっ??あったんですか??」
「さきほど、日本人のお客来なかった?って聞かれたんです。入り口で日本人の財布を拾ったって。でもそのお客が戻ってくる保証もないから、直接警察に届けてくれとお願いしたところでした」
「どんな方でした??」
「若い男性でした」
マジかー!!!!!
「警察って近いんですか???」
「ええ、この通りをまっすぐ行った道路沿いです。右側です」
ありがとう!!店員さん!!
彼の大ファインプレーをよそに、僕は、信じられない思いでいそいそと店を出て再度自転車にまたがり、警察署へと急いだ。
ふと空を見上げると、より高いところに登った満月がとても美しい。
行き過ぎていないか心配になり、時折道行く人に警察署の位置を尋ねるが、皆同じ方向を示す。
間違いない。警察署に近づいている。僕の財布に近づいている。
心なしか、尋ねた人が心配そうにしている気がする。
「この日本人はなぜゆえに警察署に行くのだ?」と言いたげな気に。
さすがに聞かれなければこちらから「いや財布落として」なんて言い出しはしなかったけど、心の中で「台湾の人たちはなぜこんなにも親切なのだ!!」とひとりごちる。
しばらく走ると、それらしき建物が見えてきた。「POLICE」のマーク。間違いない。ここだ。
自転車を停めると、中から1人の若い男性が出てきた。学生風だ。
僕を見ると、「あっ」という表情になり、小走りに中に入っていく。僕を指さしている。
その興奮気味な姿を見て僕は確信した。財布は無事だ!!
あの青年はきっと
「落とした人が来ましたよ!」とでも伝えてくれているのだろう。
警察署内はすでに当直態勢で人はほとんどいなかったが、彼に続いて中に入ると、もう僕が来た理由を全員がわかっているという感じだった。歓迎ムードさえ広がっていた。
50がらみの警察官が、僕の財布と中身が一緒に撮影した写真を見せ「これだろ?」と嬉しそうに聞いた。
僕は、小さく頷いたつもりだったけど、今思い返せば、首の関節が外れるほど大きく頷いていたと思う。
彼は、椅子を指さし「座って」と言った。
拾得物の届け出処理は済んでいたようだった。
警察官の机には他にも、財布の中にあるものを丁寧に記録した書類などが上がっていた。
そして、警察官から茶色の封筒が手渡された。
「開けて確認してください」
封筒は厳重に、かつ、きちょう面に封どめされていた。
誰も寄せ付けないような厳格さをにじませた封筒は、台湾警察の誇りを象徴しているように見えた。
ビリビリと開けてみると、そこには、使い古されたモンベルの財布があった。見慣れたいつもの財布だった。財布はまるで何もなかったかのように佇んでいた。
もちろん、お金もそのままだった。
すべてが元通り!!
こんなことってあるのだろうか?
僕は今台湾にいる。
お金を落としても、拾った人が警察署に届けてくれる国。
それが台湾なのか。
中国4千年の歴史を受け継ぎながらも、先進国の常識を共有し、倫理が根付く国。
こんな場所、他にあるだろうか??
拾ってくれた男性が、どうしたらいいかわからないという感じで佇んでいた。
僕は、学生風の男性に「あなたが拾ってくれたんですか?」と尋ねた
「そうです」と、優しい笑顔で、少し照れ臭そうに頷いだ。台南市内にある理系の大学に通う学生だという。
静かな話し方で聞かれたこと以外は話さなかったが、誠実さがにじみ出ていた。
一緒に写真を撮りたいけど、ここは警察署の中。
日本の警察署内で写真撮影しだしたら、締め出されるだろう。
「どうしたもんか」とソワソワしていると、新たな書類の処理をしていた警察官が
「写真撮りたい?」と聞いてくれた。
「ぜひ!!」
拾ってくれた学生と一緒に撮影してもらうことになった。
撮影係りは、近くにいた女性警察官。なんか、鑑識っぽい。見るからに仕事のできそうな女性。
カメラを構えるポーズも決まってる。
「いきますよー」
パチリ。
ありがとう。
警察署の中で撮影させてくれるのが、またいい。
台湾・台南市。先進国ながらも、古き良きゆるさが残っている。
でも、調子に乗って紛失に関する書類を撮影しようとしたら怒られた。当たり前か。
学生さんに
「夕飯は食べましたか?」と聞くと
「食べました」という。
「ぜひごちそうさせてほしいんですが、明日はいかがですか?」と聞くとうれしそうにしてくれた。「台南は全然わからないので、お店を指定してもらえますか?そこに集合しましょう」
フェイスブックで連絡先を交換し、お店の住所を送信してもらうことにして、翌日落ち合うことにした。
警察署での処理が終わると、僕は警察署の外観を撮影した。
そこで初めて気づいた。「安平派出所」。
ここがかの有名な「安平」か!
桃園で話したおばちゃんも「台南行くなら安平がオススメよ!」って教えてくれたっけ。
おばちゃん、安平街は見れなかったけど、安平はめちゃくちゃ堪能したよ!!
そして僕は、すぐにファミリーマートへと向かった。
自転車とはいえ、すでに結構な距離を走っているにも関わらず、全く疲れを感じなかった。
早くあの店員さんに報告したかった。さっきはバタバタと出てきてしまって、ろくにお礼の気持ちを伝えてなかった。
店員さんは、預かってネコババすることだってできたかも知れないなのに、警察に届けるよう進言してくれたことに感謝の気持ちを伝えたかった。
ファミリーマートについて、彼が僕を見つけると、近寄ってきた。
「どうでした??」
「無事、戻ってきました」
と、答えると彼は心底ほっとしたような表情になって「よかった」とつぶやいた。
「ありがとう、本当にありがとう。」と伝えると
「ありがとうなんて言われるようなことではないよ」と照れくさそうにした。
台湾の青年は、感謝されると照れくさくなるらしい。
ところで、と僕は切り出した。
「拾った人から、落とした日本人に心当たりないか?と聞かれたとき、店員さんは僕だと予想ついていたの?僕を覚えていたの?」
「うん、印象に残っていた。私が質問した時、あなたキョトンとしてたから。外国人なんだなって思ったんだ。日本人だという確証はなかったけど、日本人と言われて、あの人かなって思ったよ」
そういうことか。
確かにあのとき何か聞かれたけど、僕は反応できなかったっけ。
僕の中国語は生活には不自由しないけど、小声で不意に話しかけられると全く聞き取れない。
恐らく「袋いりますか?」とでも聞かれたのだろう。
さらに僕は「実はお願いがあるんです」と切り出した。
「当時の様子を動画でインタビューさせてくれませんか?」
彼は意外なお願いに、一瞬目を丸くした後「OK」と言った。
「でも、ファミマのユニフォームは脱ぐね」
今度は僕が「OK」と返す。
外に出て、まずは落ちていた場所を教えてもらう。
やはりそうだ。写真を撮った場所。かがんだときにお尻のポケットから落ちたのだ。
彼はインタビューに答えてこう言った。(インタビュー動画は後日別にアップします)
「台湾に住んでいる感じには見えなかったし、たぶん旅行者だろうから、財布なんか落としてずいぶん困るだろうなと思ったよ。本当によかった」
僕は、彼とも次の日の食事に誘い、フェイスブックを交換して別れた。
満月は煌々としていたけど、夜の暗さにもしっかりと馴染んでいた。いつもの通りのとても美しい満月だった。
台湾で財布を落とした結果、台湾人が本当に本当に優しく倫理観が高いことを実感するに至った。
もちろんこんな善人ばかりではないだろう。
でも、こういう人たちを生み出す社会であるというのは、とても貴重な国であるのは間違いないだろう。
なんていい日なんだ!!
よし、「文章牛肉店」で夕飯だ!!メニューはすでに決めている!!